ピアノの和音で目が覚めた 随分聞き慣れた大好きな曲 終わらないかと思った冬が退き 季節は巡る そういう歌だ 言葉など一つ残らず捨てて しまえればよかったんだけどね 今日だって相変わらず カバンの中には文庫本 指先が触れるカイロは 長い夢から覚めていくようで 何もかもこうして 朽ち果てていくんだろうね そう僕も 車窓の外は晴れ イヤホン外したら現実の世界 赤いボタンを押すと 次止まりますってバスが答える ハンドクリームを塗りこむ いつかこの手で誰かの骨を拾う 幾星霜 星が回り季節が回り 繰り返しでも何かが違う まぶたの裏には いつからか憧れた世界が広がる 何度折れてもやめられないのは これが本当に大切だからだ 夢の話をしようか いや長くなるからやめておこうか 何かを志すってことはどうして こんなにも滑稽で馬鹿馬鹿しい まだ歩ける?って いつも僕は僕に問いかけている まだ歩ける まだ歩ける まだ歩ける まだ走れるよ バスは終点に至る 僕の旅はここから始まる いつも苦しい道を選んでしまう 理由はそれがいつだって 正しかったからだ いつか書き終えたら 渡すから読んでほしい だからそれまでは生きていてほしい またイヤホンをつけたら踏み出す 最初の一歩 僕は物語を綴る 物語を歌う 物語を聴かせる 細いケーブルの向こう側には もうひとつの世界 物語は始まり ピアノは鳴りを潜める