6月のカブトムシは、 褒められることもない。 だって、世界は雨の中。 梅雨が続いて、 人々は青天を待ち焦がれている。 梅雨が明けたら、 カブトムシが出てくると みんな期待している。 でも、ほんとは冷たい雨の中で、 僕はもう、 幼虫から成虫に変わっていたのだ。 早すぎた成功は、悲しい。 早熟の天才の最期は、悲しい。 これからという時に この世を去るのは、 とてもとても悲しい。 できれば暑い夏を、 力強く生きてみたかった。 自分の子供が 大きくなるのを見たかった。 大抵の人は、秋風が吹き始めると、 死に支度を始める。 カブトムシにも餌がなくなり、 気温が冷えて、 もうこのへんでいいかなと、 みんな心を定めて散ってゆく。 だから僕には、 12月のカブトムシなんて、 想像もできないよ。 もっと生きたかった。 できれば遅く出たかった。 しっかりと準備をして、 ゆっくりとみんなに認められて、 大家になって尊敬されて、 この世を去りたかった。 本当のカブトムシは、 12月まで生きたかもしれない。 でも、僕はやっぱり、 6月のカブトムシ。 早すぎる成功は、 早すぎるあの世への旅立ちとなる。 悲しいね。 ジョン・レノンという名の カブトムシは、 もうこの世に、存在しない。 存在しない。