十代、朝、秋の校舎 長い階段の終点の 突き当たりの教室の 潮騒のような声々を 潜って座る僕の隣の 机を見下ろしたあなたの 頬を撫でた髪の束が 綺麗だと思っただけ あなたと話して 目を合わせて たまに笑って この日々が壊れるのが怖くて 僕は口を噤んだまま あなたが時に思い出して 痛がるほどの傷になれたらな あなたが感じた幸せの邪魔をする 思い出になれたらな この思いは きっと不気味だろうから しまっていたほうが 将来あなたは幸せになれると 思ってしまった 霞んだ春、花の放課 あの丘の上の公園に 咲く桜の風景を 二人で見に行った日のこと レンズの先に写っていた まだ灯りのない提灯と あなたが綺麗と言った花弁を 見ていなかっただけ 触れてしまえば 崩れてしまいそうで 僕は口を噤んだまま 初夏の雨、夜、荒れの後日 僕は口を噤んだまま あなたを奪い去って逃げたい この左手にあるのがあなたの 右手であってほしい 分かってくれよ、世界 僕は優しすぎたんだ 僕が死ねばいいと思ってしまった
