「魔女に双子の兄を連れ去られ、 その時の恐怖から 声帯をも奪われた少女。 声の出せなくなった 彼女を目の当たりにしたえ魔女は 大いに喜び、 気まぐれに命だけはとらずに 生かし続けていた……」 泣き腫らした瞳には 幾度の夜が過ぎ去った現在も あの日が網膜に薄く焼きついてた 家族に守られて 狭く優しいセカイに生きて 頼れる存在を失った少女は 沈黙の中で なけなしの勇気を持って 神にではなく自らに祈る―――― 幸せな記憶の詰まった家を 有無を言わさず 厄介払いだと家主に追い出され 眠る場所さえなく 手を差し伸べる者もいなくて 過酷な現実に打ちのめされるけど 「生きてさえいれば、 必ず機は訪れる」、と 兄の言葉に想い馳せ涙拭う 仰ぎ視た深緑の夢 今は遠い幻想に消えて もう二度と戻れぬ場所に 追憶を捧ぐ... 「この瞬間もどこかで。 ねぇ、心配してるかな?」 自分のことよりも 私の身を案じてる風景が 目に浮かぶようで胸が ah...絞めつけられて―――― 「他に親類もおらず、 頼れる者もいない。 そんな少女が一人で 簡単に生きていけるほど、 この世界は優しくできてはいない。 ましてや声の出せない彼女には、 意思の疎通さえも難しくて……」 故郷を離れ 一人では初めてゆく大きな街へ 不安抱え それでも負けないと決めて どうにか拾われたのは 富豪の家での下働き 屋根の下眠れるだけで 涙が零れた―――― 『私、頑張ってるよ。 なんとかやれてるよ』 過保護な両親と 私を庇って囚われた兄の笑顔を想い 眠り...仰ぐ深緑の夢 今は遠い幻想に消えて もう二度と戻れぬ場所に 追憶を捧ぐ... 『きっと逢いに行くから。 守られてばかりの 私だったけれど……』 少女はその唇を噛み締めて 淡い決意に枕を濡らした―――― 「ある朝、 水を汲みに井戸にいくと、 見たことのない二人が 隠れるようにして体を拭っていた。 僅かだけ垣間見えた彼らの素肌には 確かに魔女の烙印があって……」 「ねぇ、見られてるっ!」 「くっ、行くぞっ」 「……っ」 「少女は必死に引き留めようとする ものの、 声が出ずそれも叶わない。 仕事を放り出し、 無心で二人を追いかける。 きっと彼らは兄と一緒に、 魔女の城に囚われていた人達に 違いないと確信して。 離れ離れになってしまった 兄の事が聞けるかもしれないと、 期待に胸を膨らませて……」