懐かしさを語る香りが 鼻先をかすめる 人工物を避けた日差しが境界線を 描いていく すり減らして角を丸めた 型落ちの音色は 錆びかけの輪を回す話に続く想像を 響かせた ほらこれがきっと南風ってやつ なんて瞬きを許せば見失う 息を上げた今日があることを 思い出せるように 探さなきゃ満たされないものばかり 選んだ 熱を込めた分の見返りを 波風に尋ねる 助走をつけてもまだ余るくらいに 世界は広くできていた 振り撒かれた雨の雫が シトラスの葉を滑る ねずみ色の地面に集まる透明な光を 飛び越えた 待ち焦がれた雲の日傘が体温を 気にしても 呼吸が整うのを 待てずに水平線の先を見ていた ほらあれがきっと折り返しっぽいね なんて二の足も踏めずに急かされる 手を離せば冷める熱量を 記憶に閉じこめた 重さのある荷物ほど 簡単にねだれない 時がきたら 枯れてしまうのに捨てられない想い この香りを恋しく思えるほどに 季節は脆くできていた 楽になれたはずの風向きに水を差す 蜃気楼 迷い続けた日々が少しずつ地図を 埋めた 口をつけた苦さの対価は 次の話でいい ささやかな余白に色が届くまで 息を上げた今日があることを 思い出せるように 探さなきゃ満たされないものばかり 選んだ 熱を込めた分の見返りを 波風に尋ねる 助走をつけてもまだ余るくらいに 世界は広くできていた