僕がこの家に来たのは君が7歳の時 僕に名前をつけたのは君でしたね 親に誓約書まで書き 何度もお願いして ようやく叶ったと喜んでいましたね おきまりの散歩コースを毎日走った ボールキャッチやフリスビーも 得意になった でもおすわりとお手だけはずっと 出来なかった そんな毎日が幸せだった 君は小4から野球を始めた 僕の相手もだんだんしなくなった 君の気を引くために何度も 靴やカバンを噛みちぎった 試合で勝った時はいつも焼肉だった トイレに行くふりをして 僕にこっそり 美味しいお肉を 食べさせてくれてありがとう でもパパにもママにもバレていたよ いつの間にか君は中学生になって 君の可愛らしかった 声もおじさんみたいになり 内緒で家に女の子を連れて 来ていたことも 僕は知っていたけど誰にも 言わなかった 君がいつもくれる美味しいハムや ソーセージ そのせいで僕はドックフードが 嫌いなった 一人で寝るのが寂しくて君が 寝ている二階まで 何度も挑戦したが階段が高かった 飼い主に似るというけれど 僕らは本当にそっくりだった 足が短く女好きなとこ 少し臆病なとこも 僕が野良犬にやられた時 君は仇を打つって 硬式ボールとバットを片手に 相手に戦いを挑んだ でも5匹もいるなんて知らなかった 君は大学に合格して1人暮らしを 始めた 毎日一緒だったのにほとんど 会えなくなり たまに帰って来た時聞こえていた ギターの音色が大好きだった 君がプロになるって言い出し親と 喧嘩した時も 僕はこっそりだけど応援していた この頃から悔しいけど僕の体は 昔みたいに元気が無くなっていた 目が見えなくなり 耳もダメになり まっすぐも歩けなくなった でもにおいだけは分かるんだ 君が帰って来たことも 君はすっかり大人になったけど 頭を撫でられる感触は 昔とちっとも変わってないよ 君が帰ってくるのを今日も 待っている 尻尾を揺らしながら待っている 僕ももう長くないから 君に伝えておこう 僕がたった1度だけ涙流した言葉を 君は小学校の文集に書いている 僕はもう一人っ子じゃない