空から言葉が降ってきて 水面を叩く音がする 飛沫をあげて飛び散る微細が 波紋の長さを知ってる ざわつく心の海の上 ぐらぐら揺れるゴムボート 「津波が来るかも知れないよ」って 聞こえないフリをしてたけど 海鳴りの向こうに声がする 大事な人の声がする 誰かを呼んでるみたいな 僕のこと呼んでるみたいだな 確かにそこにいたんだよ 触れられる距離にいたんだよ 「どこにも行かない?」 って言うから どこにも行かずに待ってたよ でも僕は戻らないことに気付いたよ そう。君がどこにも いなくなったこと 打ち寄せる波間に砂が踊る 水平線上に陽が落ちる 形のなかったものにまで 形を求める夜が来る ざわつく心の海の上 ぐらぐら揺れるゴムボート 連日の雨で水嵩を増して 砂浜一面、飲み込んだ 打ち上がる海の生き物たちが ビチビチと跳ねる音がする 徐々に擦り減っていくみたいな 命の終わりを見てるようだ 確かにそこにあったものが 音もなく消えることがある 心の中の海みたいな よくわからんものに沈んでいく でも、僕は変わっていくことに 気付いたよ そう。全て何もなかったみたいに あの頃のことは 確かにそこにあったけど もう今はどこでもない心の海の底