また模写をしている かれこれずっと あの夏を書き続けている 青い空や匂いが 輪郭になって かつての構図を起こす きっと君は 大人になってしまったんだろうな もうすっかり忘れ方も 覚えたんだろうか 僕はこのまましわしわの 子供になるんだろうな 戻れない 戻れないのにさ 田舎道を駆け抜けた自転車の軋んだ 音 夕立ちの雨上がり 乾いたコンクリートの匂い ただ透明な筆でもって 黒に描いていく 青く鮮明なあの夏の絵画を 君みたいにずっと 絵を描きたいっていつも思っていた 鮮明さなら要らない 曖昧な水性が好きだった 最後は来るさ だって僕がそれを描いていたんだ 最後の風景に 君に一番似合う色を探している きっと君は 大人になってしまったんだろうな たまには絵を 描いたりもするだろうか きっとこれは僕に課された 罰なんだろうな ああ 絵の具が乾いてしまう まぶた越しの仄明かり 長傘を撫でた午後の色 暮夜星の帰り道 君を透かして見た絵空 髪の色 瞳の奥 映った僕を見つけたこと 君が言ったんだ 大丈夫って 僕は それで それだけで生きていくんだから 日向路地の伸びた影 二人乗りで捕まった歩道橋 ばれそうな胸の鼓動 柑橘のデオドラントの匂い ただ透明な筆でもって 黒に描いていく 青く鮮明なあの夏の絵画を 描いていく