陽が昇る前に 目を覚ます 世界の狭間を漂っている 体はまだ動きそうになく 幼いころの夏に 彷徨ってゆく 坂を駆け降りる でっかい入道雲 アスファルト 通学路 ボンネットぎらつく光 誰もいない学校 校庭 転がったままのサッカーボール 薄暗い用務員の部屋 蝉の声 河川敷サイクリングロードの冒険 すれ違う上稞のおっさん 鉄橋 走ってく特急列車 板チョコみたいな土手 永遠に続く道 引き返せなくなってしまう不安 ずっと広大に見えていた世界 忘れていた あの夏の道の青さを 伸ばした手の届かない日々を ただ前を向いて 振り払ってきたものたちが 朝の陽に 溶けてゆく 曇った鏡 やたら水の冷たい水道 街道走るトラック 揺れる建て付けの悪い引き戸 香りのしなくなった畳 人の顔みたいな天井の模様 裏庭 小さな焼却炉で燃やした秘密 毎年やってくる従姉妹 終わりのない探検の始まり 楠の茂る裏山 秘密基地 指に刺さったまま取れないトゲ 大空に放った飛行機 夕方の線香花火 車のブレーキランプ見送る寂しさ 忘れていた あの夏の庭の緑を 父と母と過ごした日々を ただ前を向いて 振り払ってきたものたちが 朝の陽に 溶けてゆく 陽射しが部屋を 包み込んでゆく 僕のいられる世界は ひとつしかない
