生きているものが死にたいと願い 死にかけているものが生きたいと 願う 屠られる鳥は自分の運命を恨み 人は空を飛びたがった 何ものにもなれない世界で、 世界一大きな猫は 小さくなりたかった ぬかるみを歩けばクレーター 枕にできるのはピラミッド 尻尾で起こる交通渋滞 溜息で散っていく雲 何処へ行っても邪魔になるのだと 言えば 窓際の男は気の毒だと笑った バケツをひっくり返したように涙を 落とせば ヒールの女は 梅雨でもないのに迷惑だと怒った 何ものにもなれない世界で、 世界一大きな猫は 小さくなりたかった あの子が伸ばした手のひらに眉間を 擦り付けたかった 何ものにもなれない世界で、 世界一大きな猫は 小さくなりたかった 死んだ後は星になって、 夜空で小さく輝きたかった それはまるで、 部屋の壁時計のように 路肩に生えるスギナのように 赤子に寄り添う母親のように