焦げ目の匂い キッチンに漂う テレビの音 遠くのニュース 並べた皿に 沈黙が宿る ラストシーンは グラタンで始まる 昼下がりの視線 交わすこともなく 冷めた会話が レンジの中にいる 「今日は早かったのね」 その一言が なぜか痛くて 昨日の残り物みたいに 心も冷蔵庫にしまったまま 笑い方 忘れた二人 それでも 湯気は立ちのぼる グラタンの海に 浮かぶ記憶 初めて作った あの日の味 焦げすぎたところを 君が好きと言った それが 今も わたしの癖 窓の外は 夕暮れのシネマ オレンジ色に染まる沈黙 「離れようか」と言えないまま グラタンの焦げが ふたりを繋ぐ フォークが響く 静かな小説 誰も読み返さないページ あふれ出すミルクのように 言葉がこぼれそうで こぼれない グラタンの湯気に 揺れる気持ち 決着よりも あたたかさを選びたい この夜を ラストにしないために ほんの少し 微笑んでみる 時計の針が止まりそうで オーブンの灯りだけが 未来みたいで グラタンの匂いが ふたりの愛を 包み込む ラストシーンは グラタンでいい 争うことより やさしさを この味を 覚えていてほしい ふたりが歩いた 月日の調味料 皿を洗う 静かな夜 明日も このグラタンを作るかもね ラストじゃなくて はじまりにしたい その一言を グラタンが待っている
