愛称は「クロワッサン」 2時半発の夜汽車 先生は乗り込んで 外套を脱ぐ 瀟洒な食堂車 一輪挿しの彼岸花 添乗員は眠る 真っ暗な寝台車 心配性の窓は 冷たい星を眺める 寝具は整っているようだ 柔らかな手触りでわかる 常夜灯なら三千ルーブルないし 金平糖 屈託してはちきれそうな深夜 凍る隘路をダイヤ通りに列車は往く 湯浴みすら出来ず ねえ空中艇で見れば県境は斑点模様 雪と秋 その探照灯でぐるぐる何時間も 偵察行為 していいよ 隧道の果ては冬の国 透明な融雪水が湯気を吐く 大量に詰め込んだ天然甘味料を 燃料に変えて北上 ナヴィガトリアを見ながら 夜行列車の旅 薄いカーテンを隔てて 猫と妖精が同居 月の落ち水よ 雪を溶かし給え 雪の下に眠る 花を起こし給え 主は来ませりと 湯沸きませりと 帰り来よ 愛し記憶よ 帰り来よ 我が胸に 帰り来よ 深く傷つく準備は出来てる 深く傷つく準備は出来てる 長く苦しむ覚悟は出来てるよ さぁ おかえり 送電線 配電盤 サージタンク 忠霊塔 県道 水車 稲荷 電波塔 廃教習所 森の空薬莢 貯水池 源流 土砂を負う堰堤 電灯が橙の幹線道路 バイパスの鉄条網 夜毎泣く大石 一級河川の流路工 工場群の赤電灯 夜行列車のクロワッサン 思い出したよ やっと 愛称は「クロワッサン」 5時半着の夜汽車 少女は降りて 黎明を見る ばいばいまたね 一年越しの花束を あなたにあげる