ああ ここはどこだろう 思い描いていたのとは 随分と違うみたいだ 光なんてないのに ただただ 息だけがまだ続いていた だけどもう疲れたよ 意味もないなと瞼を閉じかけた その時 どこからか 甘くて柔らかい香りがしたんだ 導かれたかのように くたびれた小屋の前にたどり着く 看板らしきものに 何か書かれていたけど 雨に滲んだそれを読めず 僕は戸を引いた 「誰かいますか」 そう呼ぶ声が 薄暗い部屋に響き渡る すると 奥の方から一人の老婆が顔を出した そこにあるはずの目が わからないくらいに 伸び過ぎた真っ白な髪 その姿に僕は戸惑い 立ち尽くしていたけど 老婆は気に留める様子もなく 口を開いた 「ここは夢屋 夢売る店 お好きな夢を持っていって コインなんていらないから 代わりに あんたの時間 置いていってよ」 ひびの入った砂時計 並べられた 色とりどりの夢 一番綺麗な色の それを手に取り ぼんやりと眺める 「見たところ あんた まだ若いみたいだけど さて どうする」 口元に見つけた気味の悪い笑み まぁいいさ ちょうど 瞼の裏側へ渡る途中 見合った分の過去と未来 切り取って 両方をそっと手渡した 眩しい程 輝く世界 愛されるような夢を見ていた だけど 変だな 思い出せないんだ 一体 僕って誰だっけ 目が覚めて覗く鏡 そこに僕が映らない 不思議そうな顔をした老人が こっち見ていた 向き合って泣いた こんなはずじゃなかったんだって 戻った小屋の中 どこか少し若返った 老婆が吐いた いつかと同じ台詞 「ここは夢屋 夢売る店 お好きな夢を持っていって コインなんていらないから 代わりに…」 そこで言葉を遮った 「いらない 夢はこの世界で ちゃんと描いていけるから 失くした時間 返してよ ねぇ 僕が僕でいられるように ずっと僕でいられるように」 あれ ここはどこだろう 描いたのとは 随分と違うな 光なんてないから もう少し 遠くへ行ってみようか 僕が僕であるなら 必ずどこかに 意味もあるだろう それにしても まだ 息をしていて良かった
