月は冷たくないと知ったあの夜も、 忘れてしまうから。 波は胡乱な脈を刻んで、 つまさきで頼りなく揺らいだ。 誰も知らない夜明けは、 誰も知らないままだよ。 君を傷つけはしないさ。 わたしは水になりたかった。 冷たすぎるこの星を抱いて、 終わりのない 透明さでそこにいられるだけでよ かった。 わたしは水になりたかった。 幻影のように消えたかった。 ありふれていた感傷さえも 流れに離してしまえそうで、 息を呑む。 ふれたそばから泡のように咲いて、 絶えずちらつく自意識のイメージ。 なくしても気づけない鈍さを 恨んで、 ここでなにもない世界を 待っている。 境目から明るんでゆく。 手のひらを空にかざす。 展延した時間を抜けて、 わたしは水になりたかった。 冷たすぎるこの星を抱いて、 終わりのない 透明さでそこにいられるだけでよ かった。 わたしは水になりたかった。 幻影のように消えたかった。 ありふれていた感傷さえも 流れに離してしまえそうで、 息を止めたい だけだった。
