しゃがみ込んだ春の日差し 麻薬的快感を抱く。 磨りガラスの様な波間で浮かぶ 小さな船の上で君はいう。 「泣いた後みたいだね」 そっと君の目が服を焦がすほどに、 僕を照らす。 伸ばしきった君の手が空を透いて 光を切った指の間で今日が暮れる。 風の歌う音、君の鼓動。 一つ一つを切り取って、 しまっておくよ。 君の目を見つめるとき、 そこに映った僕が見える。 君のこと、知れば知るほどに 僕は僕を知っていくんだ。 一瞬の涙を僕は見逃してしまう。 あとどれくらい君の咲う顔を 映せるだろう。 覗くファインダー。 君は僕の気づかぬうちに、 渇き切ったこのパレットに 絵の具をくれた。 櫂は撓るほど、進むもの。 一つ一つを切り 取ってしまっておくよ。 僕らだんだんと歳をとった。 たくさん 泣かせてしまってごめんね。 貰ってばかりのこの心だ。 ああ、次の人生は僕が与えるから! しわのふえた君の手が頬に触れて 冷たくなった瞼にキスを。 視界が晴れる。 雨の伝う頬、君の鼓動 一つ一つを切り取って、 しまっておくよ。 伸ばしきった君の手が空を透いて 光を切った指の間で僕は終わる。 これが、最後の一枚だ。君の愛だ! フィルムの切れた僕のカメラ。