東一番丁、 ブラザー軒。 硝子簾がキラキラ波うち、 あたりいちめん氷を噛む音。 死んだおやじが入って来る。 死んだ妹をつれて 氷水喰べに、 ぼくのわきへ、 色あせたメリンスの着物。 おできいっぱいつけた妹。 ミルクセーキの音に、 びっくりしながら 細い脛だして 細い脛だして 椅子にずり上がる。 椅子にずり上がる。 外は濃藍色のたなばたの夜。 肥ったおやじは 小さい妹をながめ、 満足気に氷を噛み、 ひげを拭く。 妹は匙ですくう 白い氷のかけら。 ぼくも噛む。 白い氷のかけら。 ふたりには声がない。 ふたりにはぼくが見えない。 おやじはひげを拭く。 妹は氷をこぼす。 簾はキラキラ、 風鈴の音、 あたりいちめん氷を噛む音。 死者ふたり、 つれだって帰る、 ぼくの前を。 小さい妹がさきに立ち、 おやじはゆったりと。 ふたりには声がない。 ふたりには声がない。 ふたりにはぼくが見えない。 ぼくが見えない。 東一番丁、 ブラザー軒。 たなばたの夜。 キラキラ波うつ 硝子簾の向うの闇に。