黒い木の下を、 手を引かれながら歩いた 他人になった彼との朧気な記憶 担当の人の話では、 いま彼はひたすら無心に 安いスケッチノートに 何か描いてるらしい 「何描いてるの?」って、 僕は彼に尋ねた 施設近くの公園、 真昼を少し過ぎたベンチ 覗き込もうと身を屈めたら とっさに彼は僕の手を叩いた 僕も怒って、彼の袖を引っ張った それでも彼の腕は止まらなかった 何も言わず、激しい攻防戦は続いた 嘘なんてない、いつもあなたは 確かに僕に夢をくれたんだ 忘れたのかい?思いだして 描き殴るその手をすぐ止めてよ 老けた笑顔も、永い記憶も、 それは無になり全て消えるのか? もうあんたなど死んでも良いと 腕を押さえノートを払い退けた 黒い木の絵 もう少し一緒に行こう