『夫に先立たれた母親と、 その一人娘。二人きりの家族。 娘を女手一つで立派に育て 上げるための仕事には 休みなどなく、 昼夜もなくひたすらにその手を 動かし続けていた。 部屋に響くのは、 単調なミシンの作動音だけ。 疲労は隠し切れずに、 口を開くための力さえも 仕事に集中させてか、母娘の 会話は日に日に減っていって――』 ため息の重さは 年々 ah...増してゆくばかり 『肩でも叩こうか』なんて 言葉さえかけ辛くて 『大丈夫?』 『負担じゃない?』 言えずにただ空を切るばかりで 昔みたいに笑いあえたら どんなにいいだろう――? 心が痛かった こんなに忙しくなったのは 私が学校に 通うようになってからのことだから 「学校を辞めて、ねぇ。 私も一緒に働きたいな」 そう伝えた夜初めて泣いて 怒られたっけ ごめんねママ 無理をしてくれているのは 私のためってわかってるよ? でも寂しい気持ちが消えなくて もっと一緒の時間を 過ごせたらいいな、なんて 言えない これ以上甘えられない 「今はしっかり勉強することが 大切。 頭ではそう理解しているつもり。 でも、こんなに近くにいるのに、 心が少しずつ離れていくみたいで。 何かしたい。 けど、 こんな 私に何ができるんだろ……?」 時計の針はもう すっかり ah...朝を指していた 『また今日も寝ず働いて……。 いつか体を壊すよ?』 意を決して聞いてみた 「一ヶ月にどのくらいお金があれば 家族二人で生活できるの?」 ママは悲しそうに 「またあなたも働きたいって 言い出すの?」って小さく呟いた 『そうじゃない』 まだ言えないけど 私にも、できること。 喜ばれるかはわからないけど その日から学校帰りに 秘密の日課を増やした 広場でママに昔教えてもらった 歌を奏で続けた 毎日 雨の日も風の日も 休まず歌って…… そして今日はママの誕生日 一か月分はとても無理だったけど 今日一日休んでもいいくらい お金を貯められたんだよ さあ、受け取ってねママ 今日はゆっくりと 二人でいよう? ――いつも、ありがとう 『たった 一日だけの休息のプレゼント。 けれど、 その日は二人にとってとても 大切な。 いつまでも 忘れられない日になった――』