「私は疑うことなく信じていた。 いつか三人で仲良く暮らせる 未来を。兄との幸せを。 ワタシが良いコにしていれば、 きっと優しい母に戻ってくれる。 昔みたいに頭を撫でてくれる。 ……そう、信じていた――」 確かなものなど 何一つないけれど ただ無垢に信じている 温もりがあった 色褪せた記憶 懐かしい感覚 眠るまで髪をなでてくれた母の右手 いつか いつか 戻れる日がくるわ どんなに心が痛んでも大丈夫 どうか どうか 神様に祈るの 悲鳴も涙も溶けてなくなるように ガラクタの命にも 救いがあるなら 幾らでも向かい風に耐えてみせよう 唯一の輝きが 傍にあるのなら この傷が消えなくても それだけが変わらぬまま 守れるなら―― 『あの日、 全てが一瞬の内に崩れ去った。 遣いを済ませ、 足早に家へと帰ったキャミィが 見たものは、 重なり合う母と兄の姿。 それはまるで母ではなく、 見知らぬ他人のようで。 その光景を見た瞬間、 少女の中で何かが音を立てて 壊れていった――』 確かなものなど 何一つないのだと もう無垢な日々は帰らないと 気付いてた 蒼褪めた意識 崩れ行く感情 目覚めの瞬間は驚く程軽やかで アレは なぁに? 薄汚れているわ いらない玩具は 捨てないといけないの ほらね ワタシ 良いコにしてるでしょ 素敵な淑女になってみせるんだから ガラクタの末路にも 希望があるなら 幾らでもこの両手を血に染めよう 唯一の優しさが 離れないのなら 怖いものなんてないよ それだけを絶やさずに守りぬくよ 誰にも渡しはしない 誰にも穢せやしない 誰にも解りはしない 誰にも壊せやしない だって、ぜんぶ、ワタシが 「――こわすのだから」 ガラクタの玩具には 未来なんてない 語られる価値さえない歪んだ物語 散らばった破片で 血を流す前に この夢が終わる前に 心音も何もかも亡くしてしまおう 「なーんだ、 こんなに簡単だったんだ」 『壊れた 人形のように動かなくなった母を 前に、 赤く染まった両手を空へと翳して、 キャミィは笑っていた。 キャミィは自らの手で幻想を 破壊したと同時に、 維持し続けていた境界線を超え、 そして壊れた。 しかしその姿は、 とても美しかった。 堪らない愛しさを感じた。 そして、 己の狂気をも理解してしまう。 高揚を隠しきれず、笑みが零れた』