<♪> フェティシストの兄はいくじなし フェティシストの兄はいくじなし それでもボクの姉さんと 恋に落ちました フェティシストの姉はかわいくて フェティシストの姉はかわいくて それでも根性なし男と 恋に落ちました ぼくの姉さんは美しかったが 若くして死んだ 姉は美しかったが いかれていた フェティシストだった 空模様の機嫌の悪い日には 夕暮れまで近所を うろつきまわった 葬式の夜 姉さんの恋人と 称する男がやって来て ボクに言った 「ケンジ君 これからはぼくを 兄さんだと思ってくれ」 その夜 兄さんは ぼくの手を握ってこう言った 「君の姉さんとは 理解し合っていたよ」 やがて彼は感極まったのか ポロポロと 涙を流し始めた ぼくの手を握りながら 涙を流し始めた その手は妙に暖かく ぼくはちょっと いやだなァと思っていた <♪> それからしばらくして 兄さんは ぼくの家に遊びに来るようになった 遊びに来るというのは言い訳で ぼくに金をせびりに来るのであった 「ケンジ君 ちょっと都合してくれないか 悪い友人に ひっかかってしまってねェ」 などと言いつつ その日も ぼくの手から 金を受け取り 兄さんは テレた笑いを浮かべていたが ふいに真顔になって ぼくに言った 「ケンジ君 二人で旅に出よう どこか遠い旅に出よう 見たこともない国の風に吹かれたら 姉さんの事なんか すぐに忘れられるだろう」 のんびり暮らそう あまり金には ならないかも知れないけれど まっとうに生きるということは そーいうことなんだなァ 結局 二人でアンテナを 売りながら旅を始めた テレビもないような村でも 嬉しそうに買ってくれて 「ありがたい」とまで言ってくれた ボクも何だか 気分がよかった アンテナは飛ぶように売れて ぼくたちはお金持ちになった それはいい気分だった 一日中 ニコニコして暮らした そんなある日 ぼくは生き倒れの女の人を見た その人は心なしか姉さんに似ていて 気にはなったが 助けずに通り過ぎてしまった 次の日 結局その人は死んだと聞いた その話をすると 兄さんは ぼくを怒鳴りつけた 「ケンジ君!ケンジ君!ぼくは君を そんな男に教育した覚えはない 姉さんだってあの世で 悲しんでるはずだ ケンジ君! このいくじなしが! いくじなしが! この根性なしが!」 <♪> ボクと兄さんは 鉄棒が好きだった 小学校の校庭開放に行って 二人で鉄棒でグルグルと回った グルグル回っていると いやな事や 姉さんの事なんかは 不思議と忘れてしまえるのだった まわりながら 兄さんは ぼくに言った 「ケンジ君 なんだか 気持ちがよいねぇ」 「なんだかとっても 気持ちがいいですねぇ」 グルグルグルグル……グルグル 回りながら 兄さんはこう言った 「ケンジ君!ケンジ君!今思うと 君の そしてぼくの姉さんの事は とてもいい とてもいい とてもいい とてもいい 思い出 思い出 思い出 思い出 だったよねぇ」 兄さん!兄さん! いくじなしの兄さん! ぼくは君と姉さんを 脳髄は人間の中の迷宮で あるという観点から あえて許そう だから兄さん どんなに たくさんの人が バカにしても 君たちはフェティシストで あり続けてほしい 兄さん 聞いているのか? 兄さん 聞いているのか? しかし その後兄は しがないアンテナ売りで 一生を終えた この いくじなしが……