いつもの店の いつもの席 いつもの酒と いつもの話 どうしたことか今日は いつもの話ができない 僕はと言うと 変わらない いつもの上着と ボロ靴を 引きずってまたこの店に来ているのだが やっと暖簾が揺れたかと思うと 暖簾を揺らしたかと思うと 僕の前を素通りし 奥の席に一人 名前を呼んでみるのだが あいつはこっちを見ない そのうち主人がおかしな顔で おかしな顔で僕を見る やっとのことで目が合ったと思うと その口を開いて 何かを言おうとしているのだが 聞こうにもガヤに消されて ガヤに消されていくうちに その口は閉じて その口を閉じて下を向き 僕を見ようとしない やりきれぬまま この僕も だんだん思い出してきたのだが あいつは そう あいつはもういないのだ 気づいた頃には いつもの店の いつもの席で いつもの酒が 汗をかいて待っていた この僕を待っていた