こんな雨の日にはひとつきりの傘で 肩の触れる距離で歩く 傘を叩く雨粒のカデンツァ 降り出した雨 止まる足音 見慣れた靴が並ぶ 足許を染めて行く 黒い染みの群れ 傘を咲かす 胸にちりつく淡い影を いまはどうか紐解かないで そっと向けられた片側に もうすぐ目が合わさる予感がした 僕が座りたかったひとつきりの席は はじめまして から埋まっていて 何の躊躇いもなく隣に招く君に "何でもない僕"を知らされる 君は笑って 僕は頷く 頭上には赤い傘 予報通りの雨 僕はまたひとつ嘘をつきました 飼い馴らせない僕の胸は かなわない願いを散らかし 君の望む僕になりすます 仕舞ったままの傘がやけに重くて stay rain 急に降る俄雨だけは僕の味方で ふたりを繋ぐ赤い傘 きっとそれは僕が立てる君に一番 近い場所でそれ以上はない ああ こんな雨の日には 君の隣 期限つきの夢をみる 気まぐれなあの雲の気が済んだなら きっと僕は途方に暮れるのだろう 静かに降る雨粒のカデンツァ