バテンレースの日傘から 夏の影絵が 回り 落ち 白い首と 萌黄の帯に留まる そっと振り返った母の いつも泣いてるような目は 僕を抜けて 知らない誰かを遠く 見つめていた 傾く 陽炎 眩暈に歪む 蝉時雨坂 手を引かれて のぼってゆく 追われるように 逃げだすように 汗ばむ掌が痛かった 離れないで… 本当に愛してるのは僕 母と 同じことを言うんだね 白い首の後れ毛 掻き上げながら 微笑む女 零れる 追憶 明かり灯らぬ 黄昏の部屋 僕はあの日を思い出す 少年となり 腕を伸ばした 捉まえたいものは もう疾うに 失くしたのに 眩暈に続く 蝉時雨坂 僕はひとり のぼってゆく 追いつくように 逃げないように 背を向けた貴女は 誰だろう こっち 向いて 届くよ あと少し