時間について 我々はあまりに多くのことを 知らず、 その存在を正しく認知することすら 叶わない。 我々が感じとれるのはあくまで 物体の変化であり、 決して時間それ自体ではない。 針が動き、心臓が脈打ち、 季節が冬になる。 君が一歩前に進むと、 世界は一歩分後ろに動く。 君は一歩分の時間の存在を感じ 取る。 そしてもし世界がその動きを 完全に止めてしまえば、 同じくして我々の時間も停止する。 針は動かず、 心臓はその拍動を止め、 湖は冷たい氷に閉ざされる。 君は歩くことはおろか、 息をすることもできず、 考えることもできない。 そして冬にはそういったことが、 往々にして起こりうる。 全てが静止した世界の中で、 ごくまれに、 ほんの少しだけ何かが動く。 因果か気まぐれか、 一秒よりもはるかに短いその一瞬、 例えば木々が揺れる、雫が落ちる、 雲が 動く。 それに気づいた君は時間を 思い出す。 肺には冷たい空気が入り込む。 網膜の中で街がゆっくりと動き 出す。 小さく呼吸を整えて、 一歩足を差し出せば、 目の前の世界が、突風のように!