おはよう また一日が始まる うす暗さにわくわくしながら 朝練に向かう 友達にばったり会った時も ランニング中も 口元を覆う布 入学した時からずっとこうやし 全然平気 マスクしてない方が 顔分からんくなるって 異常じゃない? それも慣れたけど 唯一マスク外せる食事も 黙食 笑った顔を 知らない友達もたくさんいる 合宿の過酷さを語る先輩 けど その表情はどこか誇らしげで その合宿のキツさと それがまるごとなくなるキツさ どっちがキツいのか 教えてほしかった 試合で初めてシュートが決まった 瞬間 体育館の隅に 喜ぶ親の姿がかすんだ ディフェンスに戻りながら 今のゴールを帰ってからどう 説明しようかと言葉を探していた 目が覚めるような音が響き渡り コートギリギリに決まったアタック 仲間と全力で得た一点も 全力で喜ぶことは許されず “以前”を思い出すのは 心が動く瞬間だ 母親が早起きして 握ってくれたおにぎりを食べながら 始発に間に合うよう駅まで 送ってもらってる車内 「こんな時間が宝物になるんだ」と 教えてくれた大人がいた その人の目が ベストを出した 友人ぐらい輝いていたから きっと本当なんだと思う それを知った上で母親の背中を 見ても いつもと同じで ただ 咀嚼のリズムにありがとうを 忍ばせた 大会中止を伝えるコーチの目は 話を始める前から潤んでた きっと視界には 下を向く自分達と コーチ自身も晴らしたかった“ 最後となった試合”に泣く 先輩達がいる 「誰が悪いわけでもないから」 「他の学生も皆一緒やから」 納得せざるを得ん理由はいつでも 納得できる 理由までにはなってくれない どんだけそれが当たり 前に続いたって 平気になるわけがない 当たり前に制限も 仕切りもない学校生活を送りたい 授業や模試 嫌なことは最後まで残るのに それがあるからがんばれる イベントは 片っ端からなくなっていく 文化祭の代わりの黒板アート 中止でなく 延期であることに歓喜した 修学旅行も結局中止 代わりに行われた一日遠足 それすらたのしく でも いやだから 修学旅行に行きたかったなぁ 信じるほど可能性が増えそうで これだけやったからなくなるはずが ないってところまで練習に打ち込む 競技と関係のない息苦しさ 口元と胸元の内側の熱 目には一層の力がこもる “それでも折れずにここまできた” あらゆる機会を消されたって この事実までは絶対に消せない 好きだから続けられた好きなことを 好きなままいられたこと このメンバーとだから出来たと思う マスクがなつかしくなった 頃に開催される同窓会 そこで目にする 心の底から笑う同級生の顔 写真の中は無理でも 思い出の中のマスクは外れる あのゴールにも 届きべきだった歓声が届く 自分達には コロナのない中で過ごした 学生時代がないのではない コロナ禍で過ごした 学生時代があるのだ 「あの頃に比べれば」 と力をくれるであろう学生時代は 自分達は誰よりも格別だ