「ねぇ、私のどこが好きだった?」 『きっかけは些細なこと。 けれど、 得てしてそんなものなのだと 思っていた。 偶然の積み重ね。 いつしか結ばれた時、 耳元で交わされた約束。 「誰よりも幸せにするよ」 いつまでも、 という言葉がそこにないと 気付いたのは、 彼を失ってからのことだった』 出会った時は 幼かったね 婚約を誓った日 思い出す あの瞬間 まるで昨日のことみたいにね たとえ錆びたって あなたがくれたこの 指輪ははずさない ずっと、ずっと―― 『言葉に偽りはない。 けれど私が欲しいものは、 きっと‘永遠’だった』 「ねぇ、私のどこが好きだった?」 『答えて欲しい。 私はそれを守り続けるから。 ――いつまでだって、 守り続けるから』 語る声色に 悲壮感はなく 愛は消えないものと囁いて 横顔を少女に向けて ゆっくりと仮面を外した 『女性の仮面が音を立てて落ちる。 その下にあったのは少女と同じ顔。 年は重ねているものの、 疑いようもなく面影が 重なっていた』 彼女達の話になぜか惹き込まれ 感情移入して入り込めたのを ずっと不思議に思っていたけれど 彼女のその素顔を見て 謎が解けた みんな私――? 「そろそろ良い頃合いでしょうか。 もうお気づきですか? あなたは自殺を図って、 生死の境界とも言えるこの場所で 目覚められました。 この館の仮面の住人は、 あなたがそのまま 生きていればあったかもしれない 無数の可能性達。 云わば、全てあなたの物語です」 『彼女達は言葉もなく仮面を脱ぎ 棄てていく。 それぞれ年齢は異なるし 容姿もそれぞれ少しずつ 変わってはいるけれど、 そのどれもが紛れもなく 少女の面影を残していて……』 ずっと感じてた強い嫌悪感 ah…全部自分への…… みんな私―― 彼女の指輪は、錆びず今も… 「あなたはまた選ぶことができる。 痛みに耐えて生き続けるか、 そのまま楽になるか。 残された時間はもう僅か。 如何なる選択をされても、 私が導いて差し上げましょう」 「救いなんて、いらない……」 「やっと思い出した。 ――それは、 私の最期の言葉だったんだ」