雪どけは足早で野山は芽吹き 一年(うたかた)の日々を泡沫と 変える ほころぶ梅の花やハコベラの畔も さながら極楽浄土か桃源のように 角部屋抜ける風は鼻歌を誘い 腑抜けた調べと共に吹き去って 消える わざわざ見せつけてた頑なな思いも あからさまに今では野ざらし 雨ざらし のどかなだけの春の日は 最後の雪もとかしてしまう のどかなだけの春の日に たいていの事は忘れてしまうから 参道に落ちる零れ日の 白銀色に山吹が混じり 陽だまりポカポカと古寺の匂い 鐘の音 春霞 遠音に響く 何ひとつ手つかずのままで 穴蔵に逃れて冬籠り まだまだ眠くないと騒いでいたのは たかだか半年ほど前の話 のどかなだけの春の日は 最後の雪もとかしてしまう のどかなだけの春の日に たいていの事は忘れてしまうから