才能だって隠されていたって、 何一つ今まで楽しくなかった。 常冬の街に越してきたのは、 やりたいことがあったから。 生物学がやりたかった。 昔から海の生き物が好きだった。 水族館の水槽で、 自由に泳ぐ魚たちを見てから、 自分も自由になりたいなって 思っていた。 ここが居場所だ。 例えるならイソギンチャク。 心地いい場所。 サークルは水槽いじり、 担当は熱帯魚水槽。 カクレクマノミとナンヨウハギ。 ここなら自分が、 落ち着ける場所だ。 決められた場所でも、 自由に泳げていた。 海は知らんけれども、 自由に泳げていた。 田舎の狭い教室、 あるいは隔離病棟。 居場所は悪い水質の悪い水槽。 拗らせた白点病。 けど今は違ってる。 僕は、水槽のカクレクマノミ。 眺めてふと思った。 君は僕と似てるね。 隠れなきゃ誰かに、 取って食われちまうね。 凍えた冬が来る北国、 暖かい居場所だね。 やりたかった魚類学、 誰にも 虐められないカクレクマノミ。