思い出は未来を戦う 力だ、ってきいたことある なのに しあわせな記憶は、 あたしの胸をぎゅっとして揺さぶる 足もとがすくわれ、「いま」 が崩れ落ちる 失ったときに落っこちる穴があって あたしはなんども失って 穴の底から空を見上げた なんども なんども 細い昼の月が 迷子みたいに浮かんでた たくさんの人がやってきては 通り過ぎていって…… ぼうろ、きっとあんたも 「ねぇ、のら猫に戻る?」 「……のら猫は、あたしのほう」 いつか ずぅっと前 窓から眺めていた ちょうどこんなふうに 肩を震わせ 遠ざかっていったちいさな背中 ふり向かない後ろ頭 いつまでも戻らなかったひと