貴方の話を本当に聞きたいから 起こること全てを 大きな水槽に入れてしまおう 怒りに震える貴方が その帽子を脱いでしまうまで 恣意と公正の間 独りただようところ じっと耳をすませるの スペンサー、 なんて洒落た 名前の人ならまだよかった。 「幸運を祈る」ではなく、 「お前はここにいちゃあいけない」 ときた。 退学届を 出しにきただけだてめぇに 用なんかなかった。 そこ退け クソがぶちのめすぞおい僕の方を 止めんな おべんちゃらも学も額もなかった 真夜中アホなまま君と出会って 仲良くなれたかどうかは 正直分からない。 ただ、 インチキばかりに嫌気が差してる 互いをライ麦畑の崖から 落とさずいられたかもしれない。 どうだろう。 初めて出会った時、 君は遥か昔の鏡を見るようで、 ひたすらにダサく若く馬鹿馬鹿しく 腹立たしい。 死なないでいれた日、 手すりを強く握って押し返す腕には 確かにいつかの君の意志が、 まだ中に。 何処を探してもインチキはいずれ 顔を出してきて困る。 君の歳を超えて干支が回って 「あんまりうまく」 なったって変わらず散々品がない。 マスターピースか、 害の両極を強いられる日々、 死んじゃない。 Looking for the catcher in the rye. 「幸運を祈るよ」だなんて どうか 誰にも言わないで どうせ行く宛もないんだから 少しでも 気分が明るくなるところに ひとりぼっちでもいいからさ いつか君が インチキ以外に出会えますように 「その言葉を口にするとどうしても 口角は歪んでしまう。 インチキにへつらい、 笑おうとするから。 むやみに争ったって口は バカの形に開いて、 少し息を吐くばかり」 いろんなものいっぱいひろげて 明日旅立とう どうしても連れて 行ってくれないなら 手を繋いでいよう 割れたレコード並べ直して、夜 朝日を待っている 次に映画館へ行くなら ちょうちょを探すの 「誰かが耐えなきゃいけない時 化学繊維で延長したまつ毛に 涙を吸ってもらって 水面を見る インチキと狡知をあやつって にこやかに挨拶する時 飲み込んだ言葉は いずれ表紙をつけて 海へ流れ出る 岸辺に立つ誰かが すこしでもわかってくれるように そんな狡い考えで 異国語を学ぶのかもしれない」 結局 貴方は一人で行ってしまった 8ドル65セント 外套に突っ込んで 回転木馬の君を見て、 それで全てが 終わったわけじゃあないんだけれ ど、 幸せに嘘をつくなんて反吐が 出ることはしたくはないから、 けれど、それでも雨は降っていて。 僕が手を握っている間、 離し難いのは確かなんだけれど、 僕がいない間、いつまでも君が、 インチキ以外と出会えますように。 僕みたいなひどい嘘つきには 君も会ったことがないだろうから 「期待」や「信用」なんて くれぐれもしないでほしいんだけれ ど バカみたいに寒い冬の日にさ ひとりで寮を飛び出したんだ 行き先はアンソニー・ウェイン街 あの先生には お別れを告げにいこうと思って 先生の部屋のベッドに腰を下ろすと 「退学の理由」だとか 「将来の心配」だとか そんなことはどうでもいいのに ほんと頭に来ちゃうよな あべこべに話をあわせながら 頭では別の場所へと飛んでいた セントラル・パークから ラジオ・シティのスケートリンクへ もう学校には戻れないし 頼まれても 戻らないから
