ぼくは大切なものが何かは知らない 砂だらけの世界で出会った少年 途方に暮れていたぼくに 話してくれた かつて彼が旅したときの思い出 愛おしいバラと住んでいた星と 楽しそうに話している彼を横目に 不時着した飛行機ぼくは修理に夢中 何も知らないまま今日が終わる 満点に広がる星たちの下 記憶に残ったのは不確かな残像 今は彼がどんな表情(かお)か、 思い出せない 幻想 ぼくは(再び)夜空を見上げる 墜落した飛行機 立ち上る煙 見渡してみても一面砂ばかり 翳るのはこの月明かりのせいさ ぼくのせいじゃない そう、ぼくのせいじゃない 翌朝出会った人は幼かった 飛ぶように笑うその声が良かった おしゃべりすぎるところがたまに キズだが 悪いやつじゃない そんな気がした 彼の話すことはどれも とっぴなものばかり まるで実際に見たような夢物語 とくにバラの花のはなしが 好きだった 明日にはまた飛行機が飛ばせる – Un jour, j’ai vu le soleil se coucher quarante-trois fois ! Et un peu plus tard tu ajoutais – Tu sais… quand on est tellement triste on aime les couchers de soleil… ある日、 僕は43回も夕焼けを見たんだ! それから少しして彼は言った。 ねえ、 とても悲しい時は夕焼けを 見たくなるものでしょう? 今日も残業終わって退社して 夜空も見上げず 車飛ばす深夜 街灯消えた海岸線 いつだってある 頭のてっぺんにある小さな星は 僕の星 ほんとうの家 小惑星Bの612番地 いつの間にかなった サラリーマンになった 忘れるために酒飲む数字好きな 大人になってしまったのは 今日も 食わせないといけないきみがいるか らです バラに水やり世話するように ガラス鉢を被せるように きみを飼い慣らした僕が 会社に飼い慣らされ 僕を飼い慣らした 会社がお上に飼い慣らされ 僕らのお上は大国に飼い慣らされる みんながみんなを 飼い慣らしたからとて みんながみんな 幸せになれるわけもなく 星たちを治めていた 賢い王さまが退いて 長く しめやかに 続いていた 涙の国は一瞬で滅びた 天使が通ったあとで 始まったのは民たちの大移動 (Exodus) お上の声も ネズミの声も もはや足音にかき消されて 行く先は誰にも分からないけれど 迷った時は あの物語を想い出そう 生まれた星と バラの花を愛した 王子さまの物語を – Un jour, j’ai vu le soleil se coucher quarante-trois fois ! Et un peu plus tard tu ajoutais – Tu sais… quand on est tellement triste on aime les couchers de soleil… – Le jour des quarante-trois fois tu étais donc tellement triste ? Mais le petit prince ne répondit pas. ある日、 僕は43回も夕焼けを見たんだ! それから少しして彼は言った。 ねえ、 とても悲しい時は夕焼けを 見たくなるものでしょう? つまり43回も夕焼けを見た日、 君はとても悲しかったのかい? しかし彼は返事をくれなかった。
