弟にあげる

歌詞

夏祭りの盆踊りの 景品でばあちゃんからもらった ラジカセ 弟と２人 初めて自分達の声を録音し再生し 「こんな声のはずない」 と何度も録音し再生し テープ擦り切れるまで アナウンサーごっこ 何の事件も起きない田舎町 野良犬を発見 まだろくに字が読めない弟のため 漫画の朗読を録音したり 単身赴任の父へ今日あった出来事を 録音し送ったり いつの間にか段 ボールいっぱいのカセットテープ いつの間にか上書きする 事出来ない戻らない日々と出会った テープの様に巻き戻したり 早送りをしたり出来ないと知った 録音出来るのは今この瞬間だけだと 知った また来年も着る為しまう タンスに防虫剤 欠けた月 跡形も残さず あの月よりも早く走る事 出来たらきっと 絶対に今度こそ追い付ける またタンスから出す防虫剤の香りと 共に でも もう サイズ合わないから この服は弟にあげる あれは東北に雪解けが訪れる 春目前の３月 関東ナンバーのスキー 帰りのカップルの乗った乗用車 弟を追いかける僕 急ブレーキとともに 見慣れた景色の色が変わった 時間すら遅れて感じた 大きく瞼を閉じて 再び瞼を開けた時に 横たわる弟が見えた あの瞬間だけは 今でもはっきりと覚えている うつむきながら１人帰宅して 自分がもう少し早く走れていたらと 自分を責めて 夜も眠ることが出来ずに遠くで鳴く 夜烏に向け 再生と録音を繰り返しクリック 何度も何度も (弟がいるはずの)二段ベッドの下を 確認して また来年も着る為しまう タンスに防虫剤 欠けた月 跡形も残さず あの月よりも早く走る事 出来たらきっと 絶対に今度こそ追い付ける またタンスから出す 防虫剤の香りと共に でも もう サイズ合わないから この服は弟にあげる 奇跡というのは本当にあるもので あんなに空高く舞って地面に落ちた 弟が帰って来た 事故後に初めて録音したテープは オレの宝さ 何の事件も 起きない田舎町でその年１ 番の事件になった 僕は事故から生還した 弟のインタビューをした 震えた声を心臓の奥から絞り出して いつも兄のおさがりでふて腐れてた 弟 いつか僕よりも大きくなって欲しい 必ず まだテープ残ってる 最後の最後まで このテープが擦り切れるまで これは残すためじゃなく 進むための録音だ 大好きな巻き戻しボタンですら 前に進むためのボタンだ 翌年の小学校のマラソン大会で 前年度ビリッケツの僕が 5位に入賞した ゴール横にばあちゃんと手を繋ぐ 弟の姿 今ならあの月も 追い越せる かもしれない 帰り道で 弟が両手でラジカセを持ち 「今日のマラソンは 非常に素晴らしい走りでした！ おめでとうございます！」 また来年も着る為しまう タンスに防虫剤 欠けた月 跡形も残さず あの月よりも早く走る事 出来たらきっと 絶対に今度こそ追い付ける またタンスに戻す 防虫剤の香りと共に いつの間にか オレより大きくなってくれたから