ただ一度の夏 君は甘い嘘に 自ら溺れる 心浮かれ 今を背にして 向こう遠くをゆく帆影の揺れて なまぐさい潮を抱いた風でもう 私は肺の奥から湿気てしまいそう あなたの吐くだろう息も 知らないうちに ただ一度の夏 君は甘い嘘に 自ら溺れる 白いくびと 黒い襟足 うるさいほどの日盛りは過ぎ かすかな火照り ほかは跡形もなく 寄せては果てて散るだけの潮の泡と 手のひらをこぼれ落ちていく 陸の砂と ただ一度の夏 君は笑い 胸を掠めた事実を 恋がために認められない 灼かれて干からびて もう鳴かない蝉の姿よ 過ぎれば何ていう事はないと つま先で小突いて ただ一度の夏 嘘を選ぶ君の弱さも 美しい 暑い頃の赤い血潮は