「クソォ ババァ 段取り悪いな もうそこ置いとけって こっち先片せ あーもうそれちゃう それは置いとって もう洗い場行け こっちの仕事増やしやがって」 「出よ せっかく 休み合わしての旅行やったのにな ハァ うまくいかへんな」 「お会計でお願いします もうこれ以上 ここで食事しようと思えないんで 代金はそこに置いてますんで おつりはもう結構です おばあちゃん せっかく作ってくれたのに ほとんど残しちゃった ごめんね」 言うたらスッキリするってのは 言われた側が想像でついた大嘘 言うた側は 自分が口にした言葉で胸がつかえる 腹を減らすために 動き回った日中 何も食べずに出てきたのに すっかりいっぱいになった胸に また損をした気分を覚える 夜風はいつも他人事のように吹く 草の匂いをのんきに鼻元に運ぶ 今も引っかかってるのは 店を出る直前 おばあちゃんが一番悲しそうな 瞳をしていたことだ 散々歩いてやっと見つかった二軒目 威勢のよい掛け声とともに 冷えたビールが運ばれてくる 本来なら今頃 ビールから地酒に切り替わり ほろ酔いで楽しく会話していた 二人を弔うような泡に見えた