陽の落ち始めた帰り道 保育園の迎えを終え 家まで帰る二人の頭上を 高架の電車が大きな音を立て 猛スピードで駆け抜ける 「でんしゃ でんしゃ」 最近“でんしゃ”を覚えた息子が だっこひもの中 足をバタつかせ 目をキラキラさせながら そう うれしそうに連呼する 「ほんまやな 電車やったな 合ってる合ってる すごい でんしゃやった」 足が向かう方向を少し変え ある思いつきで 最寄りの駅へと向かう もう すっかり陽の落ちた 街の改札口は 宝石箱のような光に溢れ 二人を温かく迎え 入れてくれるような 親しみのある色彩を放っていた 「入場券ってどこで買えますか?」 息子の存在に気付き 目的を察した 駅員さんはどこかうれしそう この人も昔 親に連れられ電車を 見たことがあるのかもしれない 「もう少しで電車来るからな」 二人で眺める 何も走らない線路が ふと何かと重なる …ああそうか 花火が上がる前の夜空だ 「でんしゃ でんしゃ」 さっきより間近で駆け抜ける電車を 指さし 何度も何度も連呼する 「でんしゃ でんしゃ」 今日の日の出来事を まだ幼い息子はきっと いずれ忘れてしまうだろう 「でんしゃ でんしゃ」 電車を待つ人の唇に笑みが浮かぶ 気配がホームに優しく立ち込める 「でんしゃ でんしゃ」 そう上気する声は 夜空の花火に向けられた 「たまや」のように耳に響く