甲斐性なしな位が丁度いい御時世 唇に甘い、甘い毒を 両耳を手で塞いで丁度いい位の 静寂が窓を叩いている 紅差した顔で気障に夜を抱く 月のように、 寝おびる貴方が笑うように この髪の擾れも知らないわ 知らないように知らないわ 要無しの口紅を拭って 夜の深さに付け込んだ 貴方は何も知らないで 春雨に心を濡らして 向うが見えないの 貴方が見えないの 甲斐性なしな位の排他的な人生 芳しく甘い、甘い蜜を こまねいた手を開いて丁度いい位の 温もりが肌を伝っていく カイドウを手折るように、嗚呼 紅を捨てるように、 どんな音も零さないように この髪の擾れを撫で付けて 知らないことを知りたいの 夕雨に瞳が弛んで 夜の深さも醜さも 私は何も知らないわ 寝覚めの悪い夢のような 向うへ跳びたいの 粧しがまだ要るの おごれる位の春が好いの うそぶく位の夜が好いの 嗚呼、恋と云う猛毒が この私の柔膚を焦がしている! この髪の擾れも知らないわ 俄か雨なんて知らないわ 要無しの口紅を拭って 夜の深さに付け込んだ 貴方は何も知らないと 春雨に心を濡らして 向うが見えないわ 貴方も見えないわ この擾れ髪も知らないわ