サファイアの海に 溶けてく街で 更埴出土の 土器の破片 囁くように 語りかけては 錆びた記憶を 磨いている モザイクタイル 砕け散った 姨捨の月に 問いかけても 誰もいない夜 答えのない 方程式だけ 残されて 稲荷山の 石段登れば 帯状の雲が 首筋巻く オルガンの音が 漂うように 霧の隙間を 泳いでゆく ペン先から滴る インクの染みは 深海生物の コロニーみたい 春の気配を 閉じ込めたまま 標本のように 眠っている 顕微鏡の中 結晶になる 思い出たちが 並んでいて 封入された 小さな世界 解凍を待つ 氷の標本
