「うれしい」や「さみしい」 を直接伝えられる贅沢があと 何回あと何分残っていたとしても 次じゃなく今 開いた襖から漏れた明かりを 横切るあなたがそこにいるうちに 陽が落ちた暗闇を照らす 明かりの元にあなたがいるうちに 85才を過ぎたあたりから死という 別れを意識しだした 大晦日に実家に帰るたびこれが 最後の年越しかもと押し 入れの奥から古いアルバムを持ち 出して 思い出を撫でる様に会話する ストーブの上で焦がす干し芋 「欲しいもの」を未だに聞いてくる あの日から数え始めた秒針一滴づつ 落ちる点滴 重ね春間近軒下の氷柱から落ちる 一滴 「いってきます」のまま 終わってしまうことだけは 避けたいんだ 出来れば「ただいま」 で終わりたい生まれてから今日まで 何千回も口にした言葉だあなた 宛ての 始まりと終わりをつかさどる1 人では成り立たない言葉が『言霊』 という言葉は多分行き場を失った 言葉に宿る まだ受け止めてくれる 人がいるうちは言葉は 言葉のままだと思うだから、 常に目先で息をする この言葉もいつか過去で息を吹き 返す たった5文字で涙を 笑顔に変える事が出来る 魔法というには大げさ過ぎて でも、魔法といっても過言ではない 「自分の足で歩こうとしないと 筋力が落ち歩けなくなる」と 言われた祖父は足の骨が折れた後に リハビリを頑張ってまた 歩けるようになった 言葉もそれと同じところがあり 自分の言葉で 伝えようとしないといつの間にか 言葉の意味だけ先行して置き 去りにしてしまう気持ちだけを まるで、 日本語を日本語に和訳した様な会話 時間を惜しんで倍速で観た 映画の様に 残るどころか失われていく 気付いた時には言葉も帰路の目的を 失う あの日から数え始めた秒針一滴づつ 落ちる点滴 重ね春間近軒下の氷柱から落ちる 一滴 「いってきます」のまま 終わってしまうことだけは 避けたいんだ 出来れば「ただいま」 で終わりたい生まれてから今日まで 何千回も口にした言葉だあなた 宛ての ある日のライブ 前夜に翌日のセットリストを組み 立てながら思った 上司の悪口と祖父母の曲ばっかりだ ライブ 後に声かけてくれたお客さんは オレと同じように歳を重ね 「去年亡くなった祖父を 思い出しました」と言う 去年までとは違い思い出に対して 今日のライブを聴いてくれたんだと 思った 曇天の空を見上げて 「雨降りそうだから折りたたみ 傘持って行きな」と 差し出された花柄の傘を見て 「そんな傘を 持っていったらみんなに 馬鹿にされるよ」 と突き返した あなたの面影を追いかけたフロア あの日の空が晴れていたら 冷たくしてしまった事を 後悔せずに 済んだのかもしれないけれど でも、 あの日の空が晴れていたらきっと 今思い出す事は 無かったかもしれない 曇天の空を見上げる 度に思い出すきっとこれも行き場を 失った言葉だ 過去に戻りたいとなんて 思ったことないでも 言えなかった ことば(ありがとう)ならいくつもあ る 曇天の空を見上げ軒下の氷柱から 落ちる一滴 「あれは溶けてるんじゃなくて、 元に戻っていってるんだ」 って教えてくれた 「いってきます」 のまま終わってしまうことだけは 避けたいんだ 出来れば「ただいま」で終わりたい 生まれてから繰り返した あなた宛てのことばだ